「期待リターン」シリーズの続きです。
※参考記事:
2018.10.20 期待リターンを使ったバリュエーション
2018.10.27 期待リターンのポイント①:なぜ5年後なのか?
2018.12.22 期待リターンのポイント②:業績予想はどうやって算出するのか?
今日は、期待リターン算出の過程で5年後の想定PERを15倍とする理由について説明します。
結論を端的に言うと「PER15倍という保守的な想定でも15%のリターンが確保できるという前提で投資をすることでリスクを減らすことができるから」です。
PERは15倍が目安
まず大前提として、PERは平均するとだいたい15倍です。
過去の株式市場を見ると、PERは15倍前後で推移しています。
※参考記事:2018.9.15 PERは15倍が目安
つまりPER15倍というのは、何の変哲もない普通の成長率の企業が市場からもらえる平均的な評価ということです。
高PER評価前提の投資はリスクが高い
私が期待リターンを算出する際には、5年後の想定PERを15倍として、予想eps×15で期待株価を算出しています。
※参考記事:2018.10.20 期待リターンを使ったバリュエーション
ここで生じる疑問は「5年後のPER15倍という想定は成長株にしては低すぎないか?」ということでしょう。
確かに、投資先の企業が予想通りに成長してくれるなら、5年後はもっと高いPERで評価されていることでしょう。
例えば、先日リンクバルについて以下のような業績予想を出しましたが、こんな成長が実現するなら5年後は最低でもPER30倍の評価は受けているはずです。
売上 | 経常利益 | |
---|---|---|
2018実績 | 2,769 (+4%) | 738 (+50%) |
2019予想 | 3,270 (+18%) | 989 (+34%) |
2020予想 | 3,856 (+18%) | 1,282 (+30%) |
2021予想 | 4,526 (+17%) | 1,617 (+26%) |
2022予想 | 5,276 (+17%) | 1,991 (+23%) |
2023予想 | 6,098 (+16%) | 2,402 (+20%) |
※参考記事:2018.12.15 リンクバル(6046)を一部売却
しかし、冷静になって考えてみましょう。
リンクバルが5年後にPER30倍で評価されるという前提で投資するためには、以下の3つの条件が満たされなければなりません。
- 上記の業績予想が達成されること。
- 5年後の時点でさらに成長が期待されていること。
- 5年後がリーマンショック後のようなひどい相場でないこと。
もしこの3条件のうち1つでも満たされなければ、PER30倍評価前提での投資は大きな損失を被る可能性が高いです。
つまりは、以下のような事態が起こった場合です。
- 思ったほど成長せず、業績予想を達成できなかった。
- 業績予想は達成できたが、5年後で成長が止まってしまった。
- 業績予想が達成でき、さらなる成長が期待されているが、全体相場の暴落により妥当なPERで評価されなくなってしまった。
したがって、5年後PER30倍前提での投資はリスクが高いと言わざるを得ません。
安全域を考えたPER15倍想定
そこで、PER15倍という保守的な想定にすることでリスクを減らすのです。
PER15倍という保守的な想定でも15%のリターンが確保できるという前提で投資をすれば、もし上述の3条件のどれかが満たされなくても、大きな損失を被らずに済みます。
要は、割安に買うことでリスクを減らすというバリュー投資の基本的な考え方です。
グレアムやバフェットの言う「安全域」、つまり本質的価値と購入価格の差を大きく取ることでリスクを減らすのです。
安全域という考え方は重要ですが、安全域をあまりに大きく取りすぎると投資対象の選択肢が極端に狭くなってしまいます。
安全域は適度な水準を設定すべきです。
その点、「5年後想定PER15倍で期待リターン15%以上」という基準はちょうど良く、一定数の投資対象を見つけることができます。
私は高さ2mのバーには挑まない。周りを見渡して、またぎ越せる30cmのバーを探す。
ウォーレン・バフェット
5年後に利益が3倍以上になり、PER30倍以上に評価されてやっと年率15%のリターンが確保できるような前提で投資をする必要はありません。
もっとリスクが低く、期待リターンの高い投資対象が他にあるなら、そっちを選べばいいのです。