成長株に投資する際には、売上の拡大よりも利益率の改善を重視した方が大きなリターンを得られます。
例題
例えば、以下の問題について考えてみてください。
A社、B社いずれも、売上20億円、純利益1億円(純利益率5%)です。
A社は毎年20%ずつ売上を伸ばし、純利益率は5%のまま変わりません。
B社は毎年10%ずつ売上を伸ばし、純利益率が毎年1%ずつ改善します。
両社のPERは同程度とします。
あなたならどちらに投資しますか?
直観的には、A社の方が良い気がしますね。
毎年20%ものハイペースで売上を伸ばすA社に対し、B社の売上成長率は10%と地味で、利益率が改善するといっても1%ではたかが知れている気がします。
では、両社の5年間の純利益の推移を見てみましょう。
結果はこうなります。
意外にも、利益の伸びは、B社がA社を上回ります。
5年後のバリュエーションにもよりますが、株価もB社の方がより大きく上がる可能性が高いです。
一見、地味な成長に見えるB社が、20%という高成長企業であるA社を利益の伸び率で上回りました。
なぜ、このような結果になるのでしょうか?
利益率改善の爆発力
ある期間における企業の利益成長率は、以下のように売上成長率と利益率の改善率に分解できます。
利益成長率=売上成長率×利益率の改善率
ここで言う「利益率の改善率」とは利益率の差ではなく、倍数のことです。
例えば利益率が10%から20%になったら、改善率は20%÷10%=2倍、ということです。
A社、B社それぞれについてこの式で利益成長率を求めてみましょう。
現在 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | |
---|---|---|---|---|---|---|
売上(百万円) | 2,000 | 2,400 | 2,880 | 3,456 | 4,147 | 4,977 |
純利益率 | 5% | 5% | 5% | 5% | 5% | 5% |
純利益(百万円) | 100 | 120 | 144 | 173 | 207 | 249 |
A社の場合、売上を毎年20%伸ばすので、5年間の売上成長率は1.25=2.49倍となります。
利益率は5%のままで変わらないので、利益率の改善率は0%、倍率で表すと1倍となります。
よって、利益成長率は2.49倍×1倍=2.49倍となります。
PERに変化がなければ、株価も2.49倍になります。
現在 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | |
---|---|---|---|---|---|---|
売上(百万円) | 2,000 | 2,200 | 2,420 | 2,662 | 2,928 | 3,221 |
純利益率 | 5% | 6% | 7% | 8% | 9% | 10% |
純利益(百万円) | 100 | 132 | 169 | 213 | 264 | 322 |
B社の場合、売上は毎年10%伸ばすので、5年間の売上成長率は1.15=1.61倍となります。
利益率は5年間で5%から10%に改善するので、利益率の改善率は10%÷5%=2倍となります。
よって、利益成長率は1.61倍×2倍=3.22倍となります。
PERに変化がなければ、株価も3.22倍になります。
両社を比べてみましょう。
A社の利益成長率=売上2.49倍×利益率1倍=2.49倍
B社の利益成長率=売上1.61倍×利益率2倍=3.22倍
B社は売上の成長だけでなく利益率の改善が利益を大きく押し上げたため、売上の成長だけに頼ったA社の成長率を上回っています。
また、B社は売上の成長よりも利益率の改善の方が押し上げ効果が大きくなっています。
利益率改善がどれだけ劇的な効果をもたらすか、おわかりいただけましたか?
利益率改善を何年間も継続できる企業
「利益率の改善」と聞くと、コストカットや労働生産性の向上などを思い浮かべますが、そうした企業努力だけで何年間も利益率の改善し続けることは至難の業です。
そうした企業努力は競合他社も皆やっているわけで、結局は横並びの価格低下につながるだけで利益率改善には寄与しない可能性が高いです。
しかし、ごく稀に、企業努力にあまり頼らず、もともと持っている収益構造が原因で利益率が改善する企業が存在します。
つまり、「利益率が改善しやすい収益構造」というものがあるのです。
そうした収益構造を持つ企業では、何年間も継続して利益率を改善し続けることが可能なのです。
次回以降の記事で、この「利益率が改善しやすい収益構造」について掘り下げます。