決算シーズンとポートフォリオの入れ替えで一時中断していましたが、「期待リターン」シリーズの再開です。
※参考記事:
2018.10.20 期待リターンを使ったバリュエーション
2018.10.27 期待リターンのポイント①:なぜ5年後なのか?
今日は、期待リターンの根拠となる5年後の業績はどのように算出すればいいのか説明します。
業績予想の具体的な手順
具体例として、前回記事に掲載したリンクバル(6046)の業績予想をどうやって導き出したか、その過程を示していきたいと思います。
※参考記事:リンクバル(6046)を一部売却
①過去10年の業績を参照する
今後の成長を予想するために、まず過去の成長トレンドを把握します。
私は過去10年間の業績を見ることとしています。
過去10年としているのは、リーマンショックのあった2008年頃まで業績の推移を遡ることができ、不況耐性の分析もできるからです。
リンクバルの場合は社歴が浅いため2012年までしか業績を遡ることができませんが、若い企業の場合は遡れる範囲まででOKです。
売上(前年比±%) | 経常利益(対売上比%) | |
---|---|---|
2012 | 257 | 12 (4.7%) |
2013 | 646 (+151.4%) | 35 (5.4%) |
2014 | 1,175 (+81.9%) | 171 (14.6%) |
2015 | 1,722 (+46.6%) | 282 (16.4%) |
2016 | 2,144 (+24.5%) | 311 (14.5%) |
2017 | 2,652 (+23.7%) | 494 (18.6%) |
2018 | 2,769 ( +4.4%) | 738 (26.7%) |
売上の推移を見ると、2017年まで+20%超の高成長だったのが2018年に急に成長がストップしたように見えます。
これは2018年に経営戦略として自社街コンを大幅に縮小したためです。
このように事業別の成長率が異なる場合、業績の推移は事業別に見なければ意味がありません。
よって、ここは事業別にみていくことにしましょう。
自社街コン | 他社街コン | その他 | |
---|---|---|---|
2014 | 716 | 421 | 38 |
2015 | 1,108 (+54.7%) | 542 (+28.7%) | 72 (+89.5%) |
2016 | 1,373 (+2.9%) | 665 (+22.7%) | 106 (+47.2%) |
2017 | 1,310 ( -4.6%) | 1,155 (+73.7%) | 187 (+76.4%) |
2018 | 887 (-32.3%) | 1,670 (+44.6%) | 212 (+13.4%) |
事業別に見ていくと、自社街コンは減少傾向、他社街コンは2017年以降大きく成長率が向上しています。
この数字をベースにして今後の業績を予想していきます。
②5年後の売上を予想する
過去の業績推移を参考に、5年後の売上を予想します。
自社街コン | 他社街コン | その他 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
2018実績 | 887 (-32.3%) | 1,670 (+44.6%) | 212 (+13.4%) | 2,769 ( +4.4%) |
2019予想 | 887 ( +0.0%) | 2,171 (+30.0%) | 212 ( +0.0%) | 3,270 (+18.1%) |
2020予想 | 887 ( +0.0%) | 2,757 (+27.0%) | 212 ( +0.0%) | 3,856 (+17.9%) |
2021予想 | 887 ( +0.0%) | 3,427 (+24.3%) | 212 ( +0.0%) | 4,526 (+17.4%) |
2022予想 | 887 ( +0.0%) | 4,177 (+21.9%) | 212 ( +0.0%) | 5,276 (+16.6%) |
2023予想 | 887 ( +0.0%) | 4,999 (+19.7%) | 212 ( +0.0%) | 6,098 (+15.6%) |
自社街コンは2018年で戦略的な縮小が終わったとものとし、今後の成長率は0%としました。
他社街コンについては、2018年9月期第4四半期のみの売上が+35%だったので、2019年9月期の成長率はそれより低い+30%としました。2020年以降については成長率が1割ずつ下がっていく(2020年は+30%×9割=+27.0%、2021年は+27%×9割=+24.3%・・・)想定にしました。
その他については2018年9月期の決算説明会資料を見ると、リンクバル的には伸ばしていく方針らしいのですが、私の投資スタンスはあくまで「ワンパターンな成長」、つまりは今までの成長戦略の延長にだけ期待するというものなので、成長率は0%としました。
※参考記事:2016.12.10 ワンパターンな成長戦略
以上から合計の売上額を算出すると、だいたい今後5年は16~18%程度の売上成長率に落ち着くという結果になりました。
ここでポイントとなるのは売上成長率は下がっていく前提で業績予想をするということです。
売上成長率は規模が大きくなるにつれ徐々に下がっていく傾向があります。
もちろん例外はいくらでもありますが(例えば他社街コンの成長率は2016年の+23%から2017年には+74%に急加速している)、一旦下がった成長率が再び上昇するというのは基本的にはあまりありません。
したがって、「今後5年間の売上成長率を毎年+20%にする」というような想定は少し違和感があります。
私の場合は上の例のように、今期の成長率を設定して翌年以降は9割掛けで成長率を減らしていくというアプローチを取ることが多いです。
③5年後の経常利益を予想する
次に5年後の経常利益を予想します。
このとき追加利益、および追加利益率という概念を使います。
追加利益とは、前の年からの増収分に対応する利益のことです。
例えば、リンクバルの2016年から2017年の追加利益について考えてみましょう。
売上 | 追加売上(A) | 経常利益 | 追加利益(B) | 追加利益率(B÷A) | |
---|---|---|---|---|---|
2016 | 2,144 | 311 | |||
2017 | 2,652 | 508 | 494 | 183 | 36.0% |
2016年から2017年にかけて、売上は508百万円、経常利益は183百万円増えています。
つまり、売上を508百万円増やしたことにより、経常利益が183百万円増えたと考えることができます。
この増えた売上508百万円を「追加売上」、増えた利益183百万円を「追加利益」と呼ぶことにします。
この2つの数字を使って「追加利益率」を算出することができます。
追加利益率は追加利益÷追加売上=183百万円÷508百万円=36.0%と算出できます。
要するに売上を既存売上と前年からの増収分に分解して、前年からの増収分がどれくらいの利益をもたらしたかを分析するのが、追加利益という考え方なのです。
なぜ、そのようなことをするのかというと、利益率の改善を意識しているからです。
※参考記事:2017.4.22 利益率が改善しやすい収益構造①:固定費の増加を伴わない売上拡大
成長企業というのは損益分岐点を超えて売上が増えると、利益は売上以上の伸び率で増加するため、利益率は改善します。
5年後にどれくらい利益率が改善するのか、それを予想するためにこの追加利益率という概念を使うのです。
以上を踏まええて、リンクバルの5年後の経常利益を予想してみます。
まず、「今後5年間のリンクバルの追加利益率は50%」と設定します。
2016年から2017年にかけての追加利益率は36%でしたが、当時は自社街コンから他社街コンに経営資源をシフトしていく過程で種々の投資があったため、潜在的な利益率はもっと高いと予想されるからです。
例えばエニグモ(3665)なんかは高い時期で営業利益率が50%程度ありましたが、リンクバルも似たような手数料ビジネスなので、そのくらいの利益率は目指せるのではないかと考えました。
まず初めに2019年の経常利益を予想します。
売上 (A) |
前年売上 (B) |
追加売上 (C=A-B) |
追加利益率 (D) |
追加利益 (E=C×D) |
前年経常利益 (F) |
経常利益 (G=E+F) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
2019予想 | 3,270 | 2,769 | 501 | 50.0% | 251 | 738 | 989 |
2019年の売上は前述のとおり3,270百万円と予想しています。
前年売上は2,769百万円だったので、追加売上は3,270-2,769=501百万円です。
追加利益率を50%とすると、追加利益は501×50%=251百万円です。
前年経常利益は738百万円だったので、2019年の経常利益は738+251=989百万円と予想できます。
このような感じで1年ずつ計算していくと、5年後はこんな感じになります。
売上(前年比±%) | 経常利益(対売上比%) | |
---|---|---|
2018実績 | 2,769 ( +4.4%) | 738 (26.7%) |
2019予想 | 3,270 (+18.1%) | 989 (30.2%) |
2020予想 | 3,856 (+17.9%) | 1,282 (33.2%) |
2021予想 | 4,526 (+17.4%) | 1,617 (35.7%) |
2022予想 | 5,276 (+16.6%) | 1,991 (37.7%) |
2023予想 | 6,098 (+15.6%) | 2,402 (39.4%) |
5年後の経常利益は2,402百万円と予想できます。
直近の決算である2018年9月期の経常利益738百万円の3.3倍になり、経常利益率は26.7%から39.4%に改善します。
かなり楽観的な予想に見えるかもしれませんが、2018年2月13日に公表された業績目標付き新株予約権の行使条件の中には「2023年9月期までに20億円」という記載があります。
少なくとも経営陣は視野に入れている水準です。
売上成長率はどうやって予想するか
業績予想をするにあたって、売上成長率をどうやって予想すればいいのでしょうか。
- アナリスト予想
- 中長期計画の数字
- 決算短信の数字
- 過去の実績
まずアナリスト予想についてですが、四季報には今後2年間の予想が載っていますし、銘柄によってはアナリストレポートが出ていたりします。
しかしアナリスト予想は会社計画や過去の業績の推移に基づいた無難な数字に落ち着いている場合が多いので、私はあまり参考にすることはありません。
次に中長期計画の数字ですが、経験上、中長期計画の数字が守られることはほとんどありません。
経営者というのは翌年の数字となると割と現実的な数字を出してくることが多いのですが、3年後、5年後の数字となると遠大な構想を描きがちで、どうしても楽観的な数字を出してくることが多いです。
中長期計画は「計画」というよりは「目標」と捉えるべきだと思います。
では、決算短信の数字ですが、これはある程度参考になります。
市場は決算短信の数字が達成できるかどうかというのを割と気にするので、経営陣もある程度現実的な数字を出してくるように思えます。
決算短信を出す時点で次期が2か月程度経過しているというのもあり、今期の買い手の反応がある程度つかめるのでしょう。
決算短信の数字を参考にする場合には、過去の業績予想達成率を必ず参照しましょう。
売上 | 経常利益 | |
---|---|---|
2015 | 102% | 101% |
2016 | 95% | 110% |
2017 | 99% | 121% |
2018 | 95% | 130% |
リンクバルの場合、売上は未達で経常利益は上振れということが多く、だいたい現実的な数字を出してきたことがわかるので、ある程度信用できると思います。
事業内容によっては、特に大口契約に売上が大きく左右されるような事業では決算短信の数字はあてにならないので注意しましょう(エムケイシステムのCuBe事業とかね)。
過去の実績も非常に重要です。
景気や外部環境に左右されるような事業を除き、自律的な成長率というのは売上の拡大とともに徐々に下がっていく傾向にあります。
一旦下がった成長率が再び上昇に転じるというのはそんなに期待できませんし、逆に成長率が急減速するという現象もあまり起こりません。
したがって、上記のリンクバルの予想のように、直近の売上成長率から徐々に下がっていくようなアプローチを取ることが多いです。
結論をまとめると、「売上成長率は、短信や過去の実績を参考にしつつ、最後は自分の頭で妥当そうなストーリーを考えて調整する」ということになります。
追加利益率はどのように予想するか
業績予想をするにあたり、追加利益率の数字をどう予想するかも結果を大きく左右します。
- 過去の実績
- 同業他社、類似企業を参考
基本的には過去の数字を参考にします。
リンクバルについても過去の年すべての追加利益率を参考にします。
売上(前年比±%) | 経常利益(対売上比%) | 追加利益率 | |
---|---|---|---|
2012 | 257 | 12 (4.7%) | |
2013 | 646 (+151.4%) | 35 (5.4%) | 5.9% |
2014 | 1,175 (+81.9%) | 171 (14.6%) | 25.7% |
2015 | 1,722 (+46.6%) | 282 (16.4%) | 20.3% |
2016 | 2,144 (+24.5%) | 311 (14.5%) | 6.9% |
2017 | 2,652 (+23.7%) | 494 (18.6%) | 36.0% |
2018 | 2,769 ( +4.4%) | 738 (26.7%) | 208.5% |
基本的には直近の数字を採用します。
これはワンパターンな成長戦略、つまり今までの成長戦略の延長線上での成長を期待して投資しているためです。
ただし、リンクバルの場合、直近の追加利益率は208.5%となっています。
追加利益率が100%を超えるのは増収額より増益額のほうが多かった場合に生じます。
これは利益率の低い自社街コンが減って高利益率の他社街コンが増えたからです。
このような場合は追加売上と追加利益が対応していないので、追加利益率の概念は使えません。
一方、2016年から2017年にかけては自社街コンの売上はほとんど変わらず、他社街コンだけ増えているため、追加売上と追加利益が対応しており、追加利益の概念を適用することができます。
過去の実績を参考にした上で、同業他社や類似した収益構造の企業を参考に調整を加えます。
規模の小さい成長企業では、本社を移転したり、人を採用したり、株式公開の費用がかかったりと物入りのことが多く、また規模が小さいゆえそうした費用が全社の業績に与える影響も大きくなりがちです。
したがって、決算上の利益が本来の収益力より低く出ている場合が多いため、そうした影響を考慮する必要があります。
そのようなときは、もっと規模が大きな、同業他社や類似企業の実例は非常に参考になります。
結論をまとめると、「追加利益率は、過去の実績や同業他社・類似企業を参考にしつつ、最後は自分の頭で妥当そうなストーリーを考えて調整する」ということになります。
めんどくさくねーか
ここまで読んで、「めんどくさくねーか」と思った人が大半だと思います。
というか、ここまで読んでくれた人がどれくらいいるだろうか・・・。
確かにシンプルなPEGレシオなんかと比べると面倒くさいのですが、慣れればそうでもありませんよ。
Excelで様式を作成し、数字を入力するだけにしてしまえば、計算過程はものの数分で終わります。
私の場合、上記のような様式を作成してあり、黄色い欄に株価や業績の数字を入力していくだけで期待リターンが算出できるようにしています。
最初に様式を作成する作業は骨が折れますが、一旦作成してしまえばあとはサクサク作業できます。
多少Excelの関数の知識が必要ですが、小学生ですらプログラミングを学ぶ時代だし、このレベルならネットで情報収集する程度で自力で作成できると思います。