競争優位性シリーズの続きです。
※参考記事
2017.12.2 競争優位性
2017.12.9 競争優位性の要因①:ネットワーク効果
2017.12.16 競争優位性の要因②:無形資産
2017.12.23 競争優位性の要因③:コスト優位性
今日は、競争優位性の要因の4つ目、「乗り換えコスト」についてです。
乗り換えコストとは
顧客が今使っている製品から他の製品に乗り換えるのに伴って発生する費用のことを乗り換えコスト(スイッチコスト)と言います。
乗り換えコストが高いと顧客を囲い込むことができるため、有利な価格設定が可能になります。
携帯電話の大手キャリア(ドコモ、AU、ソフトバンク)が好例です。
大手の料金は最低でも月額6000円くらいする一方で格安スマホ(MVNO)であれば月額1000円台で利用できます。
これだけの価格差があるにもかかわらず、格安スマホへ乗り換える利用者は少なく、未だに大手キャリア3社で市場の9割を占める状況です。
大手キャリアの利用者が格安スマホへ乗り換えない理由は、乗り換えコストが高いからです。
まず、金銭的なコストがあります。解約手数料、分割払いにしていた機種代の一括清算、MVNOの契約手数料、場合によっては新しい機種の購入費用がかかります。
また、心理的なコストもあります。そもそも乗り換えによる金銭的メリットがあるのかどうか調べるのが面倒くさいし、MVNOの電波は安定しているのかなどの不安もあります。
結果、「今までのままで良いか」となり、大手キャリアに高額な料金を貢ぎ続けることになります。
このように、乗り換えコストには金銭的コストと心理的コストがあるのが特徴です。
ちなみに携帯電話は「無形資産」でも例として挙げましたが(参考記事:競争優位性の要因②:無形資産)、1つのビジネスが競争優位性の要因を複数持つのはよくあることです。
囲い込んで後からガッポリ
乗り換えコストの高いビジネスでは、しばしば初期費用は安く、後続の費用は高く設定されます。
初期費用を安くするのはなるべく多くの顧客を囲い込むためですが、顧客は一旦囲い込まれると少々高くても料金を払い続けるので、後続の費用はかなり高めに設定することができます。
大手キャリアも「機種代1円!」「キャッシュバック5万円!」などのエサで釣っておいて後から高額な通信料金でガッポリ回収するというやり口です(やり過ぎて規制されるようになったが)。
乗り換えコストの高いビジネスの例
乗り換えコストの高いビジネスの例としては以下のようなものがあります。
- プリンター:「プリンター本体が2万円なのに、インクが5千円」というような不自然な価格設定になっています。本体を原価割れするくらいの低価格に設定して顧客を囲い込み、高額なインクで利益を回収する戦略です。
- 家庭用ゲーム機:顧客にとってはそうそう買い換えられるものではないので、一旦ゲーム機を買うと何年間かはそのゲーム機のソフトを買い続けます。よって、プレステなどの本体はなるべく普及させるため赤字ギリギリの価格設定になっており、ソフトが売れるごとにソニーに手数料が入る収益構造になっています。
- 生命保険:「解約すると返戻金が減額される」などのしばりが設けられており、また乗り換えのメリット・デメリットを比較検討する面倒くささも相当なものなので、顧客は保険料を払い続けます。