ハンバーガー屋の財務諸表③:キャッシュフロー計算書編

ハンバーガー屋の財務諸表①:貸借対照表編」「ハンバーガー屋の財務諸表②:損益計算書編」の続きです。

今日は損益計算書の3つ目、キャッシュフロー計算書について見ていきましょう。

キャッシュフロー計算書の概要

キャッシュフロー計算書は、現金の出入りを表す書式です。
会社が事業を行った結果生じた現金の出入りを、以下の3つの項目に分類します。

  1. 営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)
  2. 投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)
  3. 財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)

営業CFは本業による現金の出入りを表します。
投資CFは固定資産(店舗や工場など)、子会社、債券などの取得や売却による現金の出入りを表します。
財務CFは銀行からの借り入れ、返済、株主からの資金調達や配当支払いなどによる現金の出入りを表します。

テキサスバーガーの現金の出入り

テキサスバーガーのお金の出入りを時系列で追って、3つの項目(営業CF、投資CF、財務CF)に分類していきましょう。

会社設立

キャッシュフロー計算書は一定期間、つまり期首から期末までの現金の動きを表します。
田中くんとお兄さんは合わせて1000万円を出資して、会社を設立しました。
この時点がキャッシュフロー計算のスタート時点、つまり期首となります。
キャッシュフロー計算書の「現金及び現金同等物の期首残高」に記載します。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
「現金同等物」とは簡単に換金ができ、価格変動がほとんどない資産のことで、一般的には3ヶ月以内の定期預金やコマーシャルペーパーなどを指します。

融資後

日本政策公庫から1000万円借りました。
これは「借入れによる収入」として財務CFに振り分けます。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
財務CF
借入れによる収入 1000
財務CF合計 1000

設備投資後

開業資金2000万円のうち1900万円を使って以下の支出を行いました。

  • 敷金200万円。
  • 内装1000万円。
  • 備品600万円。
  • 食材と消耗品100万円

敷金は「敷金及び保証金の差入れによる支出」として投資CFに振り分けます。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
投資CF合計 △200
財務CF
借入れによる収入 1000
財務CF合計 1000
財務諸表では、マイナスを△で表します。
キャッシュフロー計算書では「入ってくるお金」をプラスとして、「出ていくお金」をマイナスとして記載するので、敷金はマイナス、つまり△をつけて記載するわけです。

内装と備品は「有形固定資産の取得による支出」として投資CFに振り分けます。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
財務CF合計 1000
「有形固定資産」とは文字通り形のある資産のことで、土地、建物、機械設備、備品、車両などを指します。
反対に、ソフトウェアや借地権(土地を借りて使用する権利)などの形のない資産は「無形固定資産」と言います。

食材と消耗品については、期末時点で計算するため、一旦処理を保留しておきます。

開業1年後

今度は開業1年後、つまり期末時点までのお金の出入りを記載します。
損益計算書の内容をもう一度振り返ります。

<損益計算書(単位:万円)>

売上高 5000
売上原価 2000
売上総利益 3000
販売費及び一般管理費
賃借料 240
役員報酬 360
従業員給与及び福利厚生費 900
消耗品費 100
水道光熱費及び通信費 200
減価償却費 200
販売費及び一般管理費合計 2000
営業利益 1000
営業外費用
支払利息 30
営業外費用合計 30
経常利益 970
特別損失
災害損失 170
特別損失合計 170
税引前当期純利益 800
法人税 240
当期純利益 560

まず、当期純利益がそのまま現金として入ってきたと仮定して、営業CFに記載します。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
営業CF
当期純利益 560
営業CF合計 560
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
財務CF合計 1000

しかし、損益計算書の中には、現金を伴わない費用、つまり減価償却費があります。

<損益計算書(単位:万円)>

売上高 5000
売上原価 2000
売上総利益 3000
販売費及び一般管理費
賃借料 240
役員報酬 360
従業員給与及び福利厚生費 900
消耗品費 100
水道光熱費及び通信費 200
減価償却費 200 ←現金を伴わない費用
販売費及び一般管理費合計 2000
営業利益 1000
営業外費用
支払利息 30
営業外費用合計 30
経常利益 970
特別損失
災害損失 170
特別損失合計 170
税引前当期純利益 800
法人税 240
当期純利益 560

キャッシュフロー計算書では、この分の支出は既に「有形固定資産の取得」として記載しているので、このままだと二重に支出を計上することになってしまいます。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
営業CF
当期純利益 560 ←減価償却費を含んだ金額
営業CF合計 560
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600 ←こちらにも支出を計上
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
財務CF合計 1000

よって、「減価償却費の分を営業CFにプラスして戻す」という処理を行います。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
営業CF
当期純利益 560
減価償却費 200
営業CF合計 760
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
財務CF合計 1000

次に、処理を保留していた食材と消耗品についてです。
食材と消耗品は「たな卸資産の増減額」として営業CFに振り分けます。

「たな卸資産」とは、いわゆる「在庫」のことで、商品、原材料、貯蔵品などを指します。

このときに、期首時点と期末時点のたな卸資産の額を比較して、その増減を記載します。
期首、つまり会社を設立した時点ではたな卸資産はゼロです。

テキサスバーガーでは、開業時に100万円分の食材と消耗品を買い、その後1年でこれらを使って、また買い足した結果、期末時点でも100万円分の食材と消耗品がありました。
期末時点では、期首時点より100万円分の棚卸し資産が増えたため、キャッシュフロー計算書にはこのように記載します。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
営業CF
当期純利益 560
減価償却費 200
たな卸資産の増減額(△は増加) △100
営業CF合計 660
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
財務CF合計 1000
「△は増加」となるのは、在庫を増やす、つまり仕入れるときに会社が現金を「支出している」ので増えた分をマイナスにして記載するわけです。

返済

公庫からの借り入れ1000万円は10年返済なので、100万円については1年目に返しました。
財務CFに「借入金の返済による支出」として記載します。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
営業CF
当期純利益 560
減価償却費 200
たな卸資産の増減額(△は増加) △100
営業CF合計 660
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
借入金の返済による支出 △100
財務CF合計 900

株主還元

田中くんとお兄さんはテキサスバーガーで儲けた金の一部を2人で山分けすることにしました。
当期純利益560万円のうち、160万円は現金として会社に取っておき、400万円を配当金として還元します。
財務CFに「配当金の支払額」として記載します。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
営業CF
当期純利益 560
減価償却費 200
たな卸資産の増減額(△は増加) △100
営業CF合計 660
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
借入金の返済による支出 △100
配当金の支払額 △400
財務CF合計 500

キャッシュフロー計算書の完成

期首から期末にかけて現金がどれだけ増減したかを計算します。
営業CFで660万円増えて、投資CFで1800万円減り、財務CFで340万円増えたので、増減は 660万円-1800万円+340万円=-800万円 の減少となります。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
営業CF
当期純利益 560
減価償却費 200
たな卸資産の増減額(△は増加) △100
営業CF合計 660
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
借入金の返済による支出 △100
配当金の支払額 △400
財務CF合計 500
現金及び現金同等物の増減額(△は減少) △640

よって、期末時点での現金は、期首時点の現金1000万円から640万円減って、360万円となります。

<キャッシュフロー計算書(単位:万円)>

現金及び現金同等物の期首残高 1000
営業CF
当期純利益 560
減価償却費 200
たな卸資産の増減額(△は増加) △100
営業CF合計 660
投資CF
敷金及び保証金の差入れによる支出 △200
有形固定資産の取得による支出 △1600
投資CF合計 △1800
財務CF
借入れによる収入 1000
借入金の返済による支出 △100
配当金の支払額 △400
財務CF合計 500
現金及び現金同等物の増減額(△は減少) △640
現金及び現金同等物の期末残高 360

以上でキャッシュフロー計算書の完成です。おつかれさまでした。

キャッシュフロー計算書の目的

企業が「どれだけ儲かっているか」を知るには、損益計算書を見れば事足りるような気がします。
それでは、何のためにキャッシュフロー計算書があるのでしょうか?

企業の外部の人間、つまり投資家や銀行にとって、本当に大事なのは「その企業が現金を稼ぎ出しているかどうか」です。
投資家は配当を手にしたいし、銀行はちゃんとお金を返して欲しいので、その原資となる現金を稼いでいるかどうかが、投資・貸出の判断をする上で重要な情報になってきます。

そして、現金を稼ぎ出しているかどうかを知るのに、損益計算書だけでは不十分です。
なぜなら、損益計算書上は利益が出ていても、現金が手元に残らないという状態があり得るのです。
例えば、競争が激しいため、儲けた金を次々に設備投資に回していかなければならないような事業では、減価償却期間を長くすれば(減価償却費を少なくすれば)、「手元に現金が残らないのに見かけ上は利益が出ている」という状態を作り出すこともできます。
損益計算書の数字は経営者の意向でかなり恣意的に操作することができるのです。

一方、キャッシュフロー計算書は純粋に現金の流れだけを記述するので、損益計算書よりも操作の余地が少ないです。
つまり、損益計算書からは分からない現実のお金の動きを示しているのがキャッシュフロー計算書なのです。

よって、投資判断をする際には損益計算書だけでは不十分で、キャッシュフロー計算書を見ることが必須です。

まとめ

今日のポイントは「キャッシュフロー計算書は純粋なお金の出入りを示す」ということと、「損益計算書よりもごまかしにくいのでよく見ろ」ということの2点です。

今回で、3つある財務諸表について、ひととおり見終えることができました。
でも、ハンバーガー屋の財務諸表シリーズはまだ終わりではありません。
次の記事でラストにしようと思います。

次回は、3つの財務諸表の関係について説明したいと思います。

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